第40回総会
会長挨拶
第40回日本青年期精神療法学会を2023年11月25日(土)から11月26日(日)に、神戸でお引き受けすることになりました。皆様のご参加をお待ち申し上げます。実は神戸でお引き受けするのは、第19回、第28回と今回で3回目になります。とても光栄に感じております。
本学会は青年期の人たちへの精神療法を実践してこられた臨床家、またそれを学ぼうとする若手臨床家の集まりです。私も初めて参加して以来、この学会に支えられ、青年期の人たちの臨床を継続してこれたように思っています。その過程で、精神療法って何だろうと繰り返し自問自答してきたように思います。
現在、精神療法はさまざまに分化し、技術が編み出されて、それらを学ぶことがひとつのお作法のようになってきましたが、それらはいわゆる古典的な精神療法とどこが同じで、どこが違うのでしょうか?操作的に診断基準が整備され、診断と評価、治療のアルゴリズムとガイドラインが開発され、精神疾患にも適用することが標準化されようとしています。それは薬物療法だけでなく、精神療法の手技にも拡がり、ある意味でパッケージ化されるようになっています。
若い臨床家はそれを学び、患者、クライアントに用います。その重要性はいうまでもないのですが、そこから抜け落ちていっているものがあるように思います。
兵庫県立ひょうごこころの医療センター
院長 田中 究
青年期に人はそれまでの関係からいったん離れて、『一人で生きていくこと』を模索し、苦悩し、人との関係に折り合いをつけていきます。その中で苦悩を症状として表す青年は私たちの診察室に現れます。現代の青年期のこころの苦悩への支援、治療は、症状と診断に応じた技法が開発され、洗練され、治療効果のエビデンスが積み上げられています。
その一方で、疾患特異的技法には乗りにくく、その治療からこぼれ落ち、臨床家のところに辿りつくことも稀ではありません。
たとえば、発達障害をもつ人の治療は診断や評価、療育を含む支援が中心ですが、家族関係や生活環境を抜きにしては語れないところも多いと感じます。摂食障害もトラウマ関連障害も疾患に即した認知行動療法や治療技法が推奨されますが、取り巻く複雑な対人関係やその人の生活を深く読むことが必要となることは少なくありません。このことは、統合失調症、うつ病、物質依存症なども含めて精神疾患全般に共通しているように思います。
中井久夫先生は、その人の『こころのうぶ毛』を削がない丁寧な治療の重要性について述べています。パッケージ化された治療にはそうした課題はないでしょうか?『こころをみる、関係を読む』当たり前の精神療法の重要性を臨床家の眼差しから考え、クライアントの『こころのうぶ毛を守る』治療について考えていくことができればと思います。